僕の昔からの友人にK田という奴がいる。
彼は決して頭の回転が速いとか器用に世の中を渡るとかいうタイプではない。
ばかが付くほどお人好しでしかも尋常でないほどおもしろい。
呑み助で下ネタにはすぐ噛み付いてきてしかも長州小力系の体系の持ち主だ。
彼は小ぢんまりした洋風小料理屋を営んでいる。
人に任せた料理を客に出すことのできない彼は下手間から盛り付けまで
全て一人で担ってる。そういうところもやっぱり不器用に由来するところであろう。
僕は彼とこの店が好きでちょこちょこお邪魔する。
こじんまりした店のカウンターに座ると50cm先で彼は料理を作っている。
まな板の上の数ミリのゴミでさえ容易に見つけられる距離である。
こぢんまりした店にしたのは彼一人で目と手の行き届く大きさにしたかったのと
同時に客に妥協なき仕事を確認してもらう為、そして常に厳しい客の目に
己を晒し続けることが目的であったようだ。
僕は呑み助の彼がチョイスした酒と妥協なきスタイルを崩さない料理に
舌鼓を打ちながらぼんやり彼の手際のよい仕事とどんな忙しいときにも
ゴミひとつ残さない厨房を眺める。
そしてふがいない自分を叱咤しながらも心地よい刺激を受けるのであった。